公共事業改革市民会議
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Q&Aここがおかしい国土強靱化

自民党政権は「国土強靭化」を看板政策に掲げ、巨額の財政出動によって災害に強い国土づくりや景気回復をうたっています。
「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案」など法制度の整備も準備されていますが、国土強靭化でどのような政策が行われるのか? 本当に国民の安全・安心な暮らしにつながるのか? 財源は大丈夫なのか? など、多くの人がさまざまな疑問を抱いています。
そうした疑問について、ここで一緒に考えてみましょう。


「国土強靱化」と公共事業
「国土強靭化」とはどのような政策ですか?

衆議院に提出された「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案*1」には、政策の対象として「事前防災及び減災その他迅速な復旧復興並びに国際競争力の向上に資する大規模災害等に備えた国土の全域にわたる強靱な国づくりの推進」が掲げられ、「国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に資する」との目的が記述されています。
しかし自民党が当初示した「基本的施策*2」をみると、インフラ分野については1960年代以来5次にわたる「全国総合開発計画」や「日本列島改造論*3」で掲げられた内容と大差なく、旧来の建設優先型公共事業の継承にすぎません。
また被災地復興・防災・BCP*4・エネルギー・日本全体の経済力なども施策に挙げられていますが、すでに整備された開発法・基本法や各種計画(災害対策基本法・社会資本整備重点計画法・東日本大震災復興基本法など)の実効性を高めることが優先的な課題であり、防災・減災に乗じた公共事業バラマキでは国民に利益をもたらしません。



巨額の財源が必要ではないですか?

強靭化の議論では「10年間で200兆円」の投資が必要であるとして「国債の増発」を提唱しています。国債発行残高は2012年度で既に710兆円に達していますが、より重要な指標は政府の「プライマリーバランス(歳入から国債償還額等を除いた額)」の対GDP比です。*5
この数値がマイナスであれば累積債務がさらに膨張を続けることを意味します。一般に対GDP比でマイナス10%を超えるとその国の財政の持続性や信認が失われ、通貨や国債の価格下落を招くと指摘されています。

プライマリーバランスの対GDP比グラフ

防災・減災対策としての公共事業は必要ではないですか?

インフラ整備だけでは防災・減災に対して効果は限定的です。同基本法案では防災・減災等に関する記述は抽象的な内容にとどまっており、どのように被害を想定し、対策に優先順位を設けるのか明確ではありません。このような「強靭化」では防災・減災に乗じたバラマキの一方で、真に必要な対策まで共倒れになりかねません。
例えば平成24年度補正予算の国交省の事業ごとの配分*6 で道路部門を検討すると地震対策は全体の4%*7 しかありませんでした。
また東日本大震災の復興においても、資材や人員の不足で事業が進捗せず1兆2600億円(福島・宮城・岩手の被災三県)が次年度に繰り越しになったと報告されています。この上に全国で無秩序に公共事業を始めれば、防災・減災どころか東日本大震災の復興までも妨げられるおそれがあります。
(なお道路・スーパー堤防・防潮堤・ダム・リニア新幹線の各分野ごとに、問題点を後述のに示します。)



防災・減災だけでなく、公共投資そのものがデフレ対策として雇用・所得向上─いわゆる「景気」─に貢献するのではないですか?

公共投資はその定義上、GDPの増大としてカウントされ、さらに関連産業への波及効果を伴い経済活動を拡大させ、雇用や所得の増大の方向に作用します。
この効果は「乗数効果」としてシミュレーションすることが可能ですが、その度合いは図*8 に示すようにモデルや条件によりさまざまであり、都合のよい結果だけを取り出して評価することは危険です。雇用や所得を公共投資に依存すると、将来も際限なく公共投資を増加しなければ逆に大量の失業者を産み出す結果に陥ります。
またシミュレーションでは、「財政破綻」がいつ、どのように起きるかの予測も得られず、無限に成長が続く結果さえ導かれるので注意が必要です。
GDPの増大はヒューマンサービス事業(人的支援投資)によっても同様に得られるのであり、インフラ整備だけが選択肢ではありません。

経済政策とマクロ計量モデルの活用
  • *8 第35回内閣府経済社会総合研究所経済政策フォーラム「経済政策とマクロ計量モデルの活用」(2008年8月8日, 宍戸駿太郎資料)


公共工事によって地域の経済が活性化するのではないですか?

公共事業が建設関連の事業者に利益をもたらすことは事実ですが、同じ建設業の中でも中小・零細事業者には恩恵が薄く偏りがあります。こうした構造をそのままにバラマキを拡大すれば、さらに格差を助長する結果を招きます。
図は資本金規模別に、建設事業者の就業者数と付加価値額(事業者に帰属する利益)の比率を示したものです*9 (内円は就業者数の分布、外円は付加価値額の分布)。
資本金50億円以上の事業者に属する就業者数は全体の10%であるのに対して、付加価値額では19%を占めています。逆に規模の小さい企業ほど就業者あたりの付加価値が低く、利益の偏りが示されています。

建設事業者の就業者数と付加価値額(事業者に帰属する利益)の比率

各種の事業にあたって、情報公開に基づいて自治体・市民の議論や意見が反映されるのですか?

同法案では、内閣に国土強靭化推進本部を置き、本部が行う脆弱性評価の結果に基づき事業の基本計画案等を策定するとしています。
策定にあたっては都道府県や市町村の意見を聴くとされていますが、国民の意見を聴く枠組みは設けられていません。むしろ国民の責務として、国及び地方公共団体が実施する事業に協力しなければならないと記述されています。この記述からは「防災・減災」に便乗した中央省庁主導による公共事業の強行という性格が推定されます。
実際には東日本大震災に際して、国よりも自治体相互間の自主支援が大きな効果を発揮した事実にみられるように、中央集権の発想では真の防災・減災は機能しません。



公共事業費を充分に確保しないと、インフラの維持・補修ができず笹子トンネル事故のようなトラブルが続発するのではないですか?

過去に建設したインフラの補修は優先度の高い課題です。ただし笹子トンネル事故のような問題は、国土強靭化で提案されるような公共投資のバラマキでは解決しません。
新規建設の財源は補助金そのほか財政措置で確保されやすい一方で、維持・補修には財源も人材も確保しにくい制度の欠陥が現在のインフラ劣化を招いた大きな原因です。
今の制度をそのままにしてインフラ建設をバラまくと、それに比例して補修・更新費が必要となり中長期的にはボロ設備を増やすだけの結果に陥ります。
限られた人的・財政的資源の下で老朽化対策を促進するには、ライフサイクルコストの観点から新規事業を精査・抑制するとともに、既存インフラの再編・活用の視点が不可欠です。



各分野ごとの「国土強靱化」の問題点
高規格幹線道路
高規格幹線道路14,000kmのミッシングリンク(未完成部分)の早期解消は災害時の救援などに役立つのではないですか?

大規模災害時における緊急輸送は、目的地まで支障なく連続的に経路が確保されることが課題であり、高速走行は優先課題ではありません。
東日本大震災で被災地域を救援した「くしの歯作戦*10 」で有効に機能した道路は一般道です。地域の企業で実施可能な簡易かつ経験的な作業(鉄板敷き・土砂充填など)により迅速に復旧できる道路構造が望ましく、長大橋梁・長大トンネルが多い高規格道路はむしろ災害時の脆弱性を増やします。
それよりも一般道の耐震化(写真は落橋防止対策)を徹底することが緊急輸送の確保に有効です。


一般道の落橋防止対策
一般道の落橋防止対策


スーパー堤防(高規格堤防)
スーパー堤防は津波・洪水に対して役立つのではないですか?

堤防は「線」で整備される事業ですが、25年間の進捗率が1.1%の「スーパー堤防」の実態は、河川に対して「点」にしかならず治水の役に立ちません。高さは普通の堤防と変わらず津波対策にもなりません。
幅が高さの30倍もあり、堤防を越える流れには強いとされていますが、その場合は「スーパー堤防」の両脇へと越流がそれるはずで無意味です。
進捗率が極端に低いのは、治水より「まちづくり」事業との一体整備を最優先しているからです。
結果、約7千億円を投入しながら名ばかりの堤防になっています。津波や洪水に対しては、緊急情報の周知や避難方法などのソフト面を充実させる方がよほど有効です。



防潮堤
防潮堤は津波から人命を守る上で必要な設備ではないですか?

津波から守るべき地域は地勢も土地利用も自然環境も各々異なっており、条件に合った持続可能な防災対策が必要です。
いま東日本大震災被災地で行われている巨大防潮堤建設は、国の補助金に縛られた一律の計画であり、避難計画との整合性もなく人命を守る効果が疑わしいばかりか地域再生の妨げになっています。
全国の海岸や河口でも同様に計画が進んでいますが、国からの防災予算を消化するためだけの事業も見受けられ、被災地復興の足かせにもなっています。
海と陸の移行帯である海岸・河口域は、生物多様性が高く浄化機能にも優れた場所です。多島海(内海)、浅海、藻場、砂堆、磯・干潟など複雑な海岸線を持つ多彩な海岸環境が多くの自然の恵みをもたらしています。巨大防潮堤によって森・川・海のつながりが分断されれば、豊饒な海は失われ漁業の継続は不可能になります。しかも、過疎化が進む市町村では設備の維持の負担にも耐えられません。
自然との共生を基本に地域の条件に合った持続可能な防災対策こそ重要です。



ダム
全国のダム事業は2009年に見直しが行われたはずですが、現在は次々と復活しています。ダム建設の必要性はあるのでしょうか?

ダムの主な目的は利水と治水(防災)ですが、利水は20〜30年前から既に水道用も工業用も需要が減少を続け今後も増加の可能性はありません。
またダムの治水効果はあくまで机上の試算であり信頼性が低く、住民の安全確保のためには河道整備・森林・水田・雨水浸透など流域治水の推進が有効です。むしろダム建設の自然破壊による災害誘発の可能性が指摘され、ダム建設を推進する合理的な理由はもはや見出すことができません。
民主的・合理的にダム事業の徹底見直しを行える制度をつくることが求められています。

八ッ場ダム 湖面1号橋
八ッ場ダム 湖面1号橋


リニア新幹線(中央新幹線)
予想される地震(東海・東南海・南海)に対して、リニア新幹線は代替ルートとして必要ではないですか?

大規模災害時には物資の輸送が優先であり、旅客しか運べないリニア新幹線は緊急時の代替ルートとしての機能はほとんど期待できません。
レール方式の新幹線は地震時の経験がありますが、リニア方式は全てが未経験であり何が起きるか予想できません。
大深度・長大トンネルが大部分であるリニア方式では、災害時に列車本体は無事に停止したとしても、乗客の避難・救出に多大な手間がかかり、大規模災害時には消防・警察等に余計な負担を課しかえって弱点となります。むしろ新幹線より運転再開に時間を要する可能性もあります。
長期的な経営の観点からみても乗客需要予測に疑問があり、今後借入金の金利が上昇する局面では経営の健全性が損なわれ、国の財政の持続性にとってもマイナスです。