2020年8月24日[月] 東京都
JR東海も国交省も「何があってもリニアは推進する」
コロナ影響あってもリニアの意義は損なわれないとの見解〜8月24日申し入れ行動に
リニア新幹線沿線住民ネットワークと公共事業改革市民会議は8月24日、JR東海金子社長と赤羽一嘉国交相に対し、リニア工事の中止と廃止を含めた見直しを行うよう文書をもって申し入れました。
JR東海と国交省の担当者はともに、「開業の遅れや新型コロナウィルスによる新生活様式が求められているが、三大都市圏を短時間で結ぶことによってリニアは大きな経済効果をもたらす意義は損なわれない」と述べ、計画通りリニア建設を進める方針を示し、国交省もこれに協力することを強調しました。
「リニア新幹線計画を見直すことは考えていない」(JR東海)
この日の午前中、リニア沿線ネットの川村晃生、天野捷一両共同代表と公共改革市民会議の橋本良仁代表が、東京・品川区のJR東海東京工事・環境事務所を訪れ、副長に金子慎社長あての申し入れ書を手渡し、JR側の3人と一時間にわたって質疑を交わしました。
初めに、時代はもはやリニア新幹線を求めていない。それでもリニアによる経済効果や利便性を信じ事業を進めるのかと聞いたのに対し、「高速鉄道の二重系化による経営基盤の強化や三大都市圏の短時間移動による利便性と経済効果は大きい。この事業をやめる考えはないし、2027年開業を目指し進めていく」と答えました。
沿線での工事残土の処理や地下水への影響を防ぐ環境保全措置はとれるのかという問いには、「中央新幹線環境影響評価の手続きは行っており、残土については自社の事業や他の公共工事で再利用をする。地下水などについては工事中も年1回はモニタリングを行い、変化があればそれに対応する保全措置をとる」と答えました。
コロナ禍による経営状況への影響については、「収支への影響はあるが、リモート化が進んでも、それによって計画を見直すことは考えていない。安定配当・健全経営を確保していく」と答え、また住民への理解を求める努力をしていないとの問いには、「定期的に工事についても写真や動画で沿線の皆さんに報告している」と述べました。
私たちはリニアを決めた交通政策審議会なども技術者優先で人文学者や研究者を入れなかったことが問題で、これからの社会にリニアが必要かどうかの文明論がなされなかったことが問題だと指摘しました。
リニア推進について厳しい状況を考えてJR東海内に見直しの声はないのかについて返答はありませんでした。
これから始める計画の大深度地下トンネル工事について、北品川非常口、東雪谷非常口の工事残土はどのように処理するのかを聞いたところ、「等々力までの残土を掘る土は北品川非常口から排出し、横浜の新本牧ふ頭に運ばれ埋め立てに使われる。東雪谷非常口の残土は11万立方メートルで、城南島ふ頭に運ばれるが、そこで請負業者に引き渡されるので、船でどこかに積み出しているのかどうかなどわからない」と答えました。
「コロナ禍がリニアの事業へ与える影響については見極めていく」(国交省)
午後の国交省への申し入れには、川村、天野のほか、公共事業改革市民会議から遠藤保男、陣内隆之、長谷川茂雄、比留間哲生、籠谷清の各氏が参加しました。応対したのは国土交通省鉄道局幹線鉄道課と施設課の4名の職員でした。
鉄道業界を取り巻く厳しい経営状況や工事中に起きている様々な事故、過失などを考えればリニア新幹線は必要ないのではないかについて質しました。初めに私たちから、申し入れたリニア工事中止と事業の中止の理由について以下のように説明しました。
「リニアの実現により東京への一極集中をうながし、静岡県の南アルプス工事により地下水の枯渇が進み、大井川の水を利用する県民に重大な影響を及ぼすこと、静岡以外の山間部でも工事残土の処理先が決まっていないこと、工事により非常口の地下水噴出や地盤崩落、実験線車両基地での火災など様々な事故が起きていることであり、2027年開業という目論見はとっくに破綻しています」。
国交省鉄道局はこれに対し、「リニア新幹線の実現によって三大都市圏の利便性が高まり、三大都市圏へのアクセスが飛躍的に向上し、地域の活性化、地方創生に貢献する」という利点を強調し、「JR東海も環境影響評価手続き、沿線住民への説明を行い理解を求めてきた」と主張しました。コロナ禍で政府は新生活様式を推奨しているが、鉄道への深刻な影響も必至だという指摘について国交省鉄道局は「状況の変化は起きているが、それでもリニア実現の意義に変わりはない」としたうえで、「コロナ禍のJR東海への影響については注視していく」と答えました。
「南アルプスの地下水位が300m低下することは有識者会議で知らされた」
私たちは国交省に対し、9兆円の大事業について3年半の環境アセスが杜撰であることは明らかであり、最近になって明らかにされた南アルプストンネル工事による地下水位の300メートル低下することは、南アルプスの自然に最悪の結果をもたらし、ユネスコエコパーク指定の取り消しという事態も起こりえます。
国交省は地下水の300m低下をいつ知ったのかとただしました。答えは「静岡工区有識者会議で知らされた」というものですが、これまでこの驚くべき想定値が隠されてきた疑いも出ています。私たちは、リニア事業の推進に対し否定的な事実がこれまでに明らかになっている今こそ工事を中止し、廃止を含めた見直しの議論を起こすよう国交省に申し入れました。
私たちのこの日の申し入れに対し、「社会状況の変化や工事の遅れがあっても、リニアの意義は変わらず」として国交省は姿勢を変えず、JR東海も「安定配当、健全経営を続ける」という姿勢を変えていません。
一方で、国民世論もメディアも様々な状況の変化を見て、「リニアは見直すべき」、「国民的な議論や国会での質疑をすべき」との声が強まっており、この声に抗い続ける国とJR東海の主張は世間離れしています。JR東海も国交省もリニア事業の遂行について責任を重く受け止め、工事の中止と事業の中止を決断すべきです。
*申し入れ書はこちらからダウンロードできます。