公共事業改革市民会議
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スーパー堤防問題への当市民会議の取り組み

2014年2月5日[水]

生活権・財産権を侵す〜治水効果もなき「スーパー堤防」の廃止を求めて
江戸川区現地の状況と公共事業改革市民会議の取組み

「スーパー堤防事業(高規格堤防事業)」は、人口・資産の集中する首都圏、大阪圏を守るため、利根川・江戸川・荒川・多摩川・淀川・大和川の6河川のみを対象とする超過洪水対策として、1987年創設されました。
しかし、会計検査院によれば、事業開始から四半世紀経ってなお、その整備率は1.1%に過ぎません。
2009年10月、民主党政権による事業仕分けでは「廃止」とされましたが、2011年、国の「高規格堤防の見直しに関する検討会」(座長・宮村忠関東学院大学名誉教授)は人口密集地域で洪水被害から人命を守るには「必要」とし、国交省は2012年度予算で当初は6河川全川873kmでの実施計画を各河川下流域総計120kmに縮小して高規格堤防関連予算を復活させました。わずかな整備率からは、急ぐべき水害対策として有効か、また、大幅な縮小からは、真に必要な事業なのか、改めて問われなければなりません。

事業が進まない理由として、先ず第1に莫大な費用と資材(とりわけ土)を必要とすることがあげられます。第2は制度です。

制度としては、膨大な土地の買収費を削減するために、堤防の町側法面を通常の用途に使用可能(家屋等建築可能)とすることで区画整理事業とリンクさせ、土地の買取りはせずに権利変換方式を採用しています。通常は、まちづくり事業とセットで行われています。治水上の理由よりも、自治体等が実施する土地区画整理や再開発などのエリアが優先されるため、つながらず、散発的な整備になってしまっています。実際、すでになされた事業地を見れば、建物の造成地などに過ぎず、治水対策とはほど遠い部分的整備ばかりです。
会計検査院や研究機関は「スーパー堤防はつながらなければその効果は発現しない」と指摘しています。スーパー堤防との共同事業となれば、まちづくり事業にまで国費がふんだんに投入され、自治体には大きなメリットとなりますが、スーパー堤防の盛り土のため、範囲内を一斉に更地にするのは自治体のしごとであり、合意形成の困難さを思えば二の足を踏む自治体も多いのが現状です。

こうした中、江戸川区は、区内を流れる江戸川・荒川の全川を対象とした「スーパー堤防整備方針」を2006年、独自に策定しました。その結果、ゼロメートル地帯でもなく、過去一度として水害を被ったことのない北小岩1丁目東部地区(延長100m、1.4ha、住民255名)では、スーパー堤防と一体の土地区画整理事業を行うとして、総工費47億円が予定され、住民が立ち退きを迫られる事態になっています。

区画整理と一体のスーパー堤防事業は、全国6河川12地区においてなされていますが、従前地は水田や蓮田、工場跡地などで、人が生活する居住地で実施したのは平井(延長150m、1.2ha、住民220名)のみ。次いで北小岩であり、いずれも江戸川区の事業です。

すでにコミュニティが形成されている居住地でのスーパー堤防化は、基本的人権に関わる大きな問題をはらんでいます。合意していない住民に対しても、自宅を取り壊して区に明け渡す日が通知され、昨年12月中旬には、まだ取り壊していない権利者24名(88名中)に、1月末日までの明け渡しを求める催告書が届けられました。区は、「最後まで合意形成に努める」はずが、そこには「区画整理法により、区が強制執行(=家屋の取り壊し)を行うことがある」とも明示されました。

当該住民は、施行区域外への仮移転、そしてスーパー堤防完成後、施行区域内の換地先への移転と、2度の転居を強いられます。移転補償費は、従前家屋の経年を考慮した査定となるため、換地先に新居を建てるにあたり、同程度の家屋が新築できるわけではありません。本来、スーパー堤防も土地区画整理も居住環境を良くする事業でありながら、これを機に転出する住民も多く、特に高齢者には「片道切符」になるかもしれず、過酷です。

先に実施した平井地区では、区から除却(自宅等取り壊し)通知や催告書が届けられた事実はなく、今回、北小岩地区では丁寧な合意形成がなされてこなかった結果、反対住民が区を相手取って2011年、取消訴訟を提起しました。区は、「スーパー堤防は区画整理の前提ではない」として、それまでの住民説明を覆し、司法もスーパー堤防を争点にせず、原告の主張は退けられましたが、今後は東京高等裁判所で争われます。

江戸川区は、今後も本事業を進めるとしていますが、区内対象地区には4万世帯9万人が暮らし、区内全域完成までに200年、2兆7千億円を要すると試算しています。先の東日本大震災では、利根川沿いの2ヶ所でスーパー堤防が沈下、液状化する被害が発生し、盛り土そのものの危険性も露呈しました。こうした検証もなされないまま、そして、財源もひっ迫する中、この事業をすすめていくことが果たして適切なのでしょうか。

防災・減災対策ならば、脆弱な場所を優先し、住民に負担を与えず、より少ない費用で短期間になされる代替策を検討すべきです。すでに国内外で採用されている連続地中壁工法など、有効な堤防強化はあります。私たちは、スーパー堤防事業の廃止を求めていきます。

公共事業改革市民会議は江戸川区に除却を再考させるべく取り組んでいます。区長へ公開質問書を三回提出し、江戸川区の姿勢を追及するとともに事実関係を明らかにして、この問題を世に広く伝えることと、区の担当者と直接やり取りして種々の疑問点を問い質すことでした。その都度、区の担当者にその内容について説明しました。江戸川区は回答に対しての説明会開催については拒否を続けています。その他、現地見学、居住されている皆さんとの意見交換、区の担当者との意見交換等を積重ねてきました。

2014年1月14日付けで江戸川区は「事業計画変更案について意見のある方は意見書を提出することが出来ます」という告知しています。
江戸川区は昨年2013年5月30日付けで国交省関東地方整備局と、この区画整理事業が高規格堤防整備事業と一体整備するという基本協定を締結しています。本来であればこれに伴って北小岩一丁目東部地区区画整理事業は事業計画の変更が必要でした。これまでは江戸川区が「スーパー堤防事業とは関係ない」と言い張って事業を進めて来た訳ですから、対象住民に「皆さんが居住されている地区は単なる区画整理ではなくスーパー堤防になりますよ。よろしいですか?」と聞いて了承を得た上で、事業計画変更を行ってから、スーパー堤防事業へと移行しなければならなかったのです。
この事業計画変更をしないで事業を進めて来たことはまさに違法行為です。多くの居住民が立退き、残留居住民が少なくなってから「事業計画変更につき、意見募集」には腹の底から怒りがわき出します。
この意見募集は土地区画整理事業法に基づき土地区画整理事業計画策定もしくは変更に先だって認可庁である東京都都市整備局市街地整備部区画整理課が行うもので、寄せられた意見書について東京都都市計画審議会が審査し、意見書が都計審に受け入れられた場合は、認可庁が事業者・江戸川区に何らかの指示を行うことになっています。

公共事業改革市民会議は江戸川区スーパー堤防取消し訴訟原告団・弁護団、同訴訟を支援する会、の皆さんと共に、多くの皆さんに意見書提出を呼びかける準備をしています。