諫早湾潮受け堤防排水門の常時開放(以下、開門)を命じた福岡高裁確定判決の履行期限を過ぎ、国が確定判決を履行しないという憲政史上例がない異常事態が現実となってしまった。三権分立と法治国家の原則を踏みにじる国の不誠実な姿勢に対して、旧来型の公共事業を見直し真に国民の利益につながる公共事業改革を求めてきた立場から、ここに強く抗議する。
確定判決は、長年にわたって漁業被害に苦しめられてきた有明海漁民にとってようやく勝ち取った希望の光であった。開門の是非をめぐって8年余りにわたって争ってきた終着点であり、多くの漁民証言や科学者の研究結果に基づき、諫早湾干拓事業と漁業被害との因果関係を認めただけでなく、開門によって農業と漁業が共存できることを確認した画期的な判決であった。公共事業をめぐる裁判では、行政寄りの不当判決が目立つ中、真実に向き合った妥当な判決でもあった。
ところが、国は、確定した法的義務を蔑ろにして、開門準備をサボタージュしてきた。開門に反対する長崎県などの脱法的行為を言い訳にして、法的義務を果たさないことが許されるならば、民主主義社会は成り立たない。確定判決の根拠となった諫早湾閉め切りと漁業被害との因果関係は認めない、そして確定判決を履行できなかったことに対する謝罪もしないという国の態度は決して許されない。
もとより、諫早湾干拓事業に洪水や内水氾濫に対する防災効果はなく、環境アセスメントで示された海域への影響は限定的という説明も虚偽であり、実際には深刻な漁業被害をもたらした事業であった。公共事業をめぐる争いでは、数多くのダムや道路、湿地埋め立て、スーパー堤防などなど、多くの案件が今も裁判で争われているが、その多くが諫早湾干拓事業と同じく国の嘘に満ち満ちた暴挙との戦いである。今後、国土強靭化の名の下に進む不要不急な事業に対しても裁判で争う場面が出てくるかもしれない。そうした時、行政との争いの解決を司法に求めても、確定した司法判断さえ守られないのであれば、何のための裁判なのか。一体、どうすれば行政が犯す過ちから国民の生活を守り、国際公約である生物多様性の保全を達成することができるというのか。民主主義を破壊し、法秩序を崩壊させた内閣の責任はこの上なく重大である。
私たちは、このような行政の傲慢を決して許さない。安倍内閣に対して、開門を求めた確定判決の正しさを認め、確定判決に従って直ちに開門の準備を整え、判決を完全に履行することを強く要求する。