愛媛新聞社説(2013年7月20日)
公共事業「防災」便乗は許されぬ
 減少していた公共事業費が再び上昇路線に転じようとしている。2013年度政府当初予算に計上された公共事業費は5兆3000億円。前年度から15%余り上積みされた。参院選でも南海トラフ巨大地震への備えや、全国的なインフラ老朽化対策として、与野党とも公共事業の必要性を訴えている。
 東日本大震災後、防災対策の緊急性が認識された。国民の生命を守るための環境整備が大切なのは、いうまでもない。だが、財源は限られている。本当に必要か、今すぐ必要か、事業内容を厳正に見極める目を持たなければならない。
 参院選公約で自民、公明両党は「国土強靱(きょうじん)化」をスローガンに大型事業の推進をうたう。先の国会に共同提出し継続審議となった防災関連3法案の成立を目指すと明記。このうち南海トラフ巨大地震対策特別措置法案は、避難路整備の国負担を現在の半額程度から3分の2に増やすことを盛り、地域の期待も高い。
 しかし、自民党の政策集では「国土強靱化を経済発展の呼び水に」とも訴え、ダム建設推進、都市開発、高速道路4車線化、整備新幹線の工期大幅短縮や延伸、超電導リニア推進など大型開発がめじろ押しだ。防災の名を借りて、不急の事業に際限なく予算を「流用」し、開発を拡大することは許されない。
 東北の被災地で復興が進んでいない現状に目を向けなければならない。全国的に技術者や作業員が不足し、それが復興の遅れの一因になっている。いま、各地で大規模な事業を進めれば、ますます被災地は取り残される。
 公共事業は借金頼みだ。13年度末の建設国債の発行残高は256兆円。借入金などを含めた国と地方の長期債務残高は1000兆円に迫る。無限に造り続けられる時代は、とうに過ぎている。
 各地で橋、道路、トンネルなどの老朽化も進んでいる。安全対策は急務だ。経済成長や景気対策の名の下、次々と造り出したコンクリート施設が、いま、国民に大きな負担としてのしかかっている。
 その上、今後は人口が減り続ける。集落の存続が危ぶまれる地域もある。これ以上に施設を増やし、不要となる建造物や維持管理の負担、借金の重荷を将来世代に背負わせることがあってはならない。
 防災に関しては、自然の脅威を前に、どんな頑強な建造物を設けても命を守れる保証はない。どう逃げるか、助け合うかといった防災教育や組織づくり、訓練などソフト面の充実で、ハード整備以上の効果を上げることもあろう。
 問われているのは公共事業の質だ。将来を見据えた事業への転換点にきていることを自覚しなければならない。